2026年7月28日、大分市にて「通訳エスコート育成研修 二期生 第1回」を開催しました。九州観光機構が主催し、一般社団法人九州通訳・翻訳者・ガイド協会(K-iTG)が研修を実施する本事業には、九州各地から選抜された16名が参加しました。九州の豊かな観光資源を世界へ届けるために必要なのは、地域の知識や外国語のスキルだけではありません。旅行者一人ひとりの希望をくみ取り、その土地ならではの価値を見つけ、安全に旅を楽しんでもらい、心に残る時間をつくる―。
そんな「指名されるガイド」を目指して、二期生の学びがスタートしました。
「素材 × 人」で、九州の観光に新たな価値を
研修の冒頭では、九州観光機構から本事業の背景と目指す方向について説明がありました。
世界の旅行者のニーズは、単に有名な観光地を訪れることから、「本物の体験」「地域らしさ」「人との出会い」を求める方向へと変化しています。九州には、火山、海、山などの雄大な自然、新鮮な食、豊かな歴史や文化、そして地域で暮らす人々の温かさがあります。これらの「素材」に「人」の力を掛け合わせることで、観光はさらに大きな価値を生み出します。その役割を担うのが「通訳エスコート」です。
旅行会社から与えられた旅程を案内するだけではなく、自ら地域の魅力を発見し、旅をつくり、提案し、調整する。そして、ゲストとの出会いを通じて、その旅をより豊かなものにしていく。本研修では、こうした主体的な姿勢を持つプロフェッショナルの育成を目指しています。

世界基準の「ガイド」を目指して
K-iTGのオリエンテーションでは、通訳エスコートに求められる役割やプロとしての心構えについて学びました。日本のガイドは、豊富な知識と丁寧な準備、正確な説明に優れています。一方で、世界のガイドスタンダードを見据えたときには、さらにゲストとの双方向のコミュニケーションや、その場に応じた柔軟な対応力が求められます。一方的に説明するのではなく、ゲストの表情や反応を見ながら会話をつくる。予想外の質問にも、その場で考えて対応する。ガイド自身も楽しみながら、ゲストと一緒に旅をつくっていく。そうした「人と人とのコミュニケーション」こそが、地域の魅力を伝える大きな力になります。
また、プロとして信頼されるためには、語学力や観光知識だけでなく、迅速なレスポンス、期限の厳守、適切な報告、正確な経費精算など、日々の仕事に対する誠実な姿勢も欠かせません。

「1分」で心をつかむ。実践から学ぶ伝える力
午後は、自己紹介とプレゼンテーションスキルを中心とした実践的な研修を行いました。受講生は、日本語と英語でそれぞれ1分間の自己紹介に挑戦。限られた時間で自分自身を知ってもらい、相手の興味を引くためには、「何を伝えるか」と同時に「何を伝えないか」も重要です。英語での自己紹介では、外国人には伝わりにくい固有名詞をできるだけ控え、身振りや表情も活用しながら、明るく分かりやすく伝える工夫を実践しました。
講師から紹介されたのは、「KISS(Keep it Short and Simple)」という考え方。短く、シンプルに。これは自己紹介だけでなく、ゲストへの観光案内にも通じる大切なコミュニケーションの基本です。

「九州全体」を案内できるガイドへ
九州は、7県それぞれに異なる魅力を持つ地域です。福岡の都市観光や糸島、佐賀の有田、長崎の歴史と平和学習、大分の温泉や国東半島、熊本の阿蘇、鹿児島の地域文化等挙げればきりがありません。
一人のガイドが担当する地域だけを知っていればよいわけではありません。ゲストの旅程の前後にどんな場所があり、どんな組み合わせができるのか。どの地域が、どの国や旅行者層に人気なのか。その土地ならではの体験には何があるのか。「自分の地域」から「九州全体」へ視野を広げることが、九州を一つの魅力的なデスティネーションとして発信することにつながります。
近年は、少人数旅行、体験型旅行、アドベンチャーツーリズム、富裕層向け旅行、サステナブルツーリズムなど、旅行者のニーズも多様化しています。こうした変化に応えるためにも、地域の魅力を組み合わせ、ゲストに合わせて旅を提案できる力が重要になります。

多様なゲストを迎えるために
インバウンド観光では、旅行者の文化や宗教、食習慣、価値観の違いを理解することも欠かせません。研修では、ムスリム、ヴィーガン、ベジタリアン、ペスカタリアン、コーシャなど、さまざまな食習慣を紹介。日本では「九州の名物」「ぜひ食べてもらいたい料理」と思うものでも、ゲストによっては食べられない場合があります。特に食物アレルギーは生命に関わるため、正確な情報確認と細やかな配慮が必要です。
また、文化やジェスチャー、コミュニケーションの方法も国や地域によって異なります。さらに、LGBTQ+を含む多様なゲストへの対応についても学びました。大切なのは、相手を特別扱いすることではなく、一人ひとりの違いを自然に受け止め、誰もが安心して旅行を楽しめる環境をつくること。これからの観光には、こうした「多様性への理解」も重要なガイドスキルの一つとなります。
「説明する人」から「旅をともにつくる人」へ
英語セッションでは、外国人旅行者へのホスピタリティや接客英語についても実践的に学びました。ガイドは、知識を一方的に伝える「先生」ではありません。「何を見たいのか」「何に興味を持っているのか」「今、どんなことを感じているのか」ゲストとの会話を通じて、その人に合った旅をつくっていくことが求められます。そのためには、相手の言葉に耳を傾け、分かりやすく伝え、必要なときには適切な質問をするコミュニケーション力が欠かせません。そして、楽しい旅を提供することと同じくらい重要なのが「安全」です。


バスでのシートベルト着用、徒歩での交通安全、混雑した場所での迷子や忘れ物への注意など、ガイドには旅を最後まで安全に終える責任があります。
研修中に発生した地震――安全を守ることも、ガイドの使命
今回の研修では、九州の魅力に関するプレゼンテーションを目前にした16時28分頃、地震が発生しました。大分市では震度4を観測。受講生、講師、スタッフは揺れが収まるまで机の下に入るなどして身の安全を確保。その後、家族への連絡や交通機関の状況確認を行いました。
K-iTGからは、ドアを開ける、通信がつながりにくくなる前に家族へ連絡する、スマートフォンを充電しておくなど、具体的な初動対応が速やかに示されました。九州観光機構からも交通機関の状況などが共有され、受講生が安全に帰宅できるよう、会場での待機を含めた対応を行いました。予定されていた懇親会は中止となりましたが、参加者それぞれの帰宅方法や交通状況を確認。翌日まで待機してから帰宅する受講生もいるなど、安全を最優先にした判断が取られました。予期せぬ災害や交通機関の乱れは、旅行中にも起こり得ます。そのとき、ゲストの安全を第一に考え、正確な情報を集め、冷静に判断し、必要な行動を取る。今回の地震は、通訳エスコートにとって「安全管理」がいかに重要であるかを、参加者自身が実感する機会となりました。

九州を、世界が憧れるデスティネーションへ
今回の第1回研修では、観光知識や語学力だけではなく、コミュニケーション、ホスピタリティ、多様性への理解、旅程管理、安全管理、そして自ら考えて行動する力について幅広く学びました。九州には、世界にまだ十分に知られていない魅力が数多くあります。その魅力を見つけ、磨き、ゲスト一人ひとりに合わせたストーリーとして届ける。そして、地域と世界をつなぐ。それが、私たちが目指す「通訳エスコート」です。
「九州を世界が憧れるデスティネーションに」。
その実現に向けて、二期生16名の新たな挑戦が始まりました。これからの研修を通して、それぞれが地域の魅力と自身の専門性をさらに磨き、九州の観光をリードする人材へと成長していきます。

九州と世界をつなぐ、新しい旅の担い手たち。
今後の二期生の成長と活躍に、ぜひご注目ください。

